■デザインポリシー
ジュエリーは掌に乗る小さな趣味の世界です。一般的に言えば今のジュエリーに対する消費は大きく二元化し極端な海外ブランド志向と、「あの人が持っているなら私は違う物が欲しい」と言う、趣味を追求する人達に分かれています。ジュエリーデザイナーの仕事を大げさに言えば、世界中に一人だけ居るお客様と出会う旅ではないでしょうか。
 ジュエリーの世界から最大公約数という言葉が無くなって久しく、私達デザイナーの個性を問われる時代が来ています。その中で常に内に向かって自分の作りたいジュエリーを考え、しかもそれを青い鳥にせず、実現しながら進んで行かなければならないと思っています。

デザイナーには幾つかのタイプがあって、私は勝手に「天才型」「コンセプト型」「技術型」と名付けています。田宮千穂さんというデザイナーの先輩がいて、残念ながら25年ほど前に亡くなりましたが、彼女は天才型の代表だと思います。
 私の恩師である山田礼子先生は技術型の代表です。従って私も自分では技術型のはしくれだと思っています。伝統工芸の技術を使う、という意味でなく、例えば「紙をくしゃくしゃにしてもう一度延ばしたような肌合いの地金を作りたい(和紙シリーズ)」と思いつくと、先に画を描くのではなく、どうやって作ろうかと技術的な工夫から入っていく訳です。そのような意味で技術型だと思っています。絹で作った鞠のような風合の「まりシリーズ」、岩肌に水が流れ落ちる感じを表現した「岩肌シリーズ」、自然の木の枝をなるべく忠実に再現しようと思った「枝シリーズ」などがあり、全て作り方への興味から先に考えたものです。

本格的な宝石との出会いは、35年くらい前、今でもお付合いしているHさんという人がブラジルのアクアマリンを持って私のアトリエに現れた時に始まりました。勿論それまでも使うことはありましたが、アクアマリンがこれほど綺麗なものであると実感したのはその時が初めてです。水色の石を少し傾けて見ると、万年筆からブルーのインクを一滴水に垂らしたような濃いけれど澄んだ群青色が拡がります、最良質のサンタマリアでした。石を見てワクワクする体験をしてしまうと、やはり嵌ります。宝石を使ったジュエリーが自分の進む道である、と納得した瞬間でした。以来ブラジル・ドイツ・オーストラリア・スリランカなど世界中の石屋さんが極東の、しかも東京から離れた私のアトリエにやって来てくれます。また、スイスのバーゼルや、南ドイツのイーダーオーバーシュタインという山間の素敵な町に出かけて石探しをしています。

石を見ている時が一番幸せです。その石を如何に素直にジュエリーにするか、そして、身に着けて活きるジュエリーを作り続けよう、と思っています。
                                   

                                   

 
 
菅沼知行

 

● 2019年 1月18日 News更新